はじめに
このサイトを開設した99年5月当時、私はアメリカのMBAプログラムを卒業しようかという学生でした。その後アメリカのコンサルティング会社に就職し、仕事の合間に日米各地で開催させていただいたオフ会等を通じて、多くの受験生や合格者、そして予備校関係者の方々とお話しさせていただく機会に恵まれてきました。こうした一連の出会いから生まれた交流に基づく経験は、このサイトを運営してきたからこその、一受験者という立場を超えたものであるような気がしてなりません。こうした経験は、USCPAを受験しようとする皆様と共有する価値のあることではないかと考え、ここに私の考えを簡単にまとめておこうと思います。
リスクとリターン
これからUSCPAを取得しようか、という方がこれから準備を始めて数年後、果たして取得するだけの価値があったのかどうかは、その時になってから本人が振り返って検証するまで分からないものです。だからこそ、自分自身でUSCPA取得に伴うリスクとリターンを考え抜き、取得すべきかどうかを判断する必要があるのではないでしょうか。
自分自身で判断する必要性
私はまだUSCPAを取得したわけではなく、現在も合格を目指して受験している受験生です。従って、USCPAを取得する意義について語るのはおこがましい部分もある(実際ご批判も頂いております)のですが、受験生であるからこそ真剣に取得の意義を考える必要があるのではないかと考えます。

なぜこれほど自分で考えることの重要性を強調するのか。それは、受験者のバックグラウンドが多様であるだけ、USCPA取得というチャレンジを通じてかけることのできるリスクと、その結果のリターンが異なるからです。例えば、キャリアの初期段階にある方は、この資格を梃子にキャリアアップを図っていくことになると思いますが、ある程度キャリアを積んできた方にとっては、基本的にはプラスアルファの資格に過ぎません。また、Big5等の監査法人に勤務するのか、一般企業の経理部に勤務するのかでも違ってくるでしょうし、MBAプログラムへの出願において他のApplicantとの差別化を図るために取得を目指す方もいれば、日本の弁護士資格を持ち、かつアメリカのロースクールも卒業し、バーを通るまでの自己啓発の一環として取得を志す方もいらっしゃいます。投資銀行に勤める方とメーカーに勤める方でも、キャリア上のUSCPAの活かし方は異なるでしょう。USCPA取得が、合格即安泰、という資格でないことは、多様なバックグラウンドを持つ方々がチャレンジすることを許容する懐の深さを持つ半面、投入したリソースが100%無駄になる危険も内包しています。この判断を、自分以外の誰にできるのでしょうか。

多くの受験生が、USCPA受験予備校のガイダンス本を読んだり説明会に参加し、そこにあるサクセスストーリーを自分のキャリアにオーバーラップさせ、キャリアアップをキーワードにUSCPA取得に踏み切ります(正確に言うと取得準備の為に受験予備校のコースを購入します)。しかし、ある程度キャリアを積んだ方ならお分かりのように、資格がキャリアを切り開くのではありません。資格はキャリアにおける次のドアの入り口を開ける手助けをしてくれますが、どのドアを開くかは本人が決めることであり、その方針は考え抜かれたキャリアプランに基づいたものである必要があります。USCPA取得を検討することは、自分自身のキャリアプランを考え抜くことでもあるのです。誤解のないように申し上げておきますが、私は予備校の存在や、それを利用する受験生を否定しているのではありません。日本や韓国にある受験予備校のようなサービスが存在するのは素晴らしいことだと思います。受験予備校の活用については次節でより詳細に述べますが、ここで申し上げたいことは、自分自身でUSCPA取得の意義を判断することの重要性です。

では既に合格された方々からUSCPA取得の意義を伺うことはどうでしょうか?これは参考になります。ですが、あくまでも参考に留めておくべきだと思います。なぜなら、既合格者はUSCPA取得というリスクを既に取っており、その結果として合格を勝ち取っています。これから受験を検討している方は合格できないリスクも考慮する必要があります。また、USCPA取得に費やした努力や時間・費用などは合格者にとっては既にSunk Cost(埋没原価)であり、これに対する評価は自分の投入したリソースが大きければ大きいほど肯定的な方向に偏向しがちなのは心理学的にも明らかなところです。逆に、思ったような結果が出ていない場合や途中で断念した場合、USCPA取得の意義について相当否定的になるのは否めません。このように、既合格者にとってのUSCPA取得の意義が経験に基づく価値観に拠る主観的ななものである以上、彼らの意見は参考にはなりますが決定的なものにはなりえません。また合格が1年以上前の場合、試験の出題傾向からジョブマーケットでのUSCPA合格者の需給関係まで相当変わってきていますので、合格者の意見を参考にする際にも充分自分の場合と比較検討することをお勧めします。

受験予備校の活用

前節で軽く触れましたが、多くの日本人受験生が参考にする情報源として受験予備校のセミナーや出版物があります。これらは上手に活用することができれば、USCPA取得の間、頼もしい味方になります。例えば各予備校が数千円で出版しているガイダンス本に目を通せばUSCPA試験の比較的新しい情報を網羅的に入手することができますし、各予備校のウェブサイトを訪れれば州毎の最新の受験要件等が競うように掲載されています。更に、無料説明会に行けばより最新の情報を、部分的にですが入手することができます。もし無料のカウンセリングがあれば、自分の状況に応じたアドバイスをしていただくことも可能です。このようなサービス業が日本に存在していることは、日本人受験生にとって大変素晴らしいことですし、大いに活用すべきだと思います。そして、これらの受験予備校の有料サービスを購入すれば、そのコストと引き換えに受験に要する時間を短縮することができるかも知れません。

この点をInvestmentの観点から分かり易く言い換えると、Payback Periodを短縮する代償としてコストを増大させることで、ROIの低下を許容する、ということになります。受験予備校の基本的なスタンスは、Payback Periodを短縮することで受験期間中のキャリア上のOpportunity Costを削減し、有料サービスのコストと相殺することが可能であるのでROIは低下しない、という主張であると理解できるかと思います。このメッセージは、繰り返しいろいろなメディアを通じて浸透しており、日本や韓国における受験予備校のビジネスモデルのバリューチェーンの根幹をなしています。

しかしこれは仮説に過ぎず、受験予備校の利用が必ずしもUSCPA取得のROIを向上させるわけではありません。多くの受験生のデータを収集すれば統計的に有意な結果も出るでしょうが、これから受験をすべきかの判断をしようとしている人にとっての関心事は、自分にとってどのようなROIPayback periodの短縮が実現できるか、です。そしてこの仮説の構築を、受験予備校が営業の一環として行う無料カウンセリングで行うならどのような結果が期待できるでしょうか? この仮説の検証は、 USCPA受験生が試験に合格し、USCPA取得後に自分自身のキャリアへの影響を見極めた上で数年後に検証するまで分からないのです。

USCPA取得というキャリア上のInvestmentROIを上げていくには、仮説の構築を自分自身の責任で行っていく必要があるのではないでしょうか? 仮説の構築に必要なのは、USCPA受験に費やすあなたの時間・努力・コスト、そして失われる大切な人との時間等のOpportunity Costと、USCPA取得後の想定リターンです。

これらを自分でできる限り検討した結果、受験予備校の利用に自分自身でゴーサインが出せれば、是非有効に活用していくべきでしょう。受験予備校がビジネスである以上、過度に無料の情報やカウンセリングを求めることには限度がありますし、プロのサービスは対価を払ってこそ享受できるものであり、対価を払った方はそのサービス内容に対して自分がリスクを取ったことを常に認識しておく必要があると思います。

公式サイトの活用
これまでに述べてきたような、既合格者や受験予備校からの情報を活用せずにAICPANASBA、各州の会計委員会等の公式サイトで情報収集し、自力で出願・受験できる方も、試験の性格上多くいらっしゃいますが、私はこの双方を上手に活用していく必要があると思います。特に最新情報は、公式サイトを確認していくべきでしょうし、サイト上で配布している情報や、質問することのできるメールアドレス等を積極的に利用していくべきです。
議論の姿勢
USCPAを取得することの意義とは何でしょうか?これは議論の尽きないポイントですし、オフ会に参加するといろいろな考え方を伺うことができます。こうした議論は時として、USCPAを取得する意義を定義つけようとする方向に向かいがちです。この場合、議論に参加する方々が真剣であればあるほど、個々の価値観がぶつかりあって、堂々巡りの平行線を辿ります。この経験から私は、USCPA取得の意義はそれを通じて実現したいと考えているキャリアやライフスタイルによって異なる、と考えます。ですから、USCPA取得の意義について議論する場合、その議論から有意義な洞察を得たいならば、議論する相手が考えるキャリアと、その中でUSCPA取得が位置付けられているポジションの関係に注目し、それに対する自分自身のキャリアとUSCPA取得の関係性を照らし合わせて議論していく姿勢が望ましいのではないかと考えます。
状況の変化
このためには、自分自身のキャリアと、その中におけるUSCPA取得の意義について真剣に考えておく必要があります。USCPA取得の意義は個々人によって異なるということは、このUSCPA取得を通じて誰にでもバラ色のキャリアが開けるわけではないということです。既に日本国内のジョブマーケットでは、初期のUSCPAホルダーの絶対的不足という状況から、USCPAホルダーの選別という、次の段階への移行が始まりつつあります。
多様性の尊重
USCPAを取得することの意義は、人によって異なります。この資格を取得することで誰にでもバラ色のキャリアが開ける訳ではありません。人によっては時間の無駄遣いになることもあります。USCPA取得の意義について考える時、USCPAという資格がどのように自分のキャリアに関わってくるのかを、自分自身で考える必要があります。